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Messe de Tournai 

 

現在のベルギー⻄部、フランスの国境沿いに位置する⼩さな町トゥルネー。
その町のノートルダム大聖堂の蔵書の中に、14 世紀に作られた1 冊の写本が
あります。聖歌集であるその写本には「トゥルネーのミサ」と呼ばれる、⻄洋
音楽史上重要なミサ曲が残されています。


 「トゥルネーのミサ」は、現存する最古の多声のミサ・サイクルの1つです。
ミサ・サイクルとは、もともと別々に作られていたミサ通常唱を、典礼の流れ
に沿って一連のミサ曲(キリエ・グローリア・クレド・サンクトゥス・アニュ
スデイ)の形にまとめたものです。そしてこのミサ曲は15 世紀頃から作られ
始める1 人の作曲家による通作ミサとは異なり、それぞれの作風の違いから
時代も違う複数の作曲家によって書かれたと考えられており、バラエティー
に富んだ、非常に興味深い内容になっています。


 例えば、キリエ・サンクトゥス・アニュスデイは、アルス・アンティクァと
いう、当時としてはすでに古い様式のゆったりとした曲なのに比べ、グローリ
アやクレドはアルス・ノーヴァという新しい様式・技法で、細かな装飾や複雑
なリズムを伴った壮大で劇的な曲が選ばれています。また、ミサの最後のあい
さつとして本来短く唱えられるイテ・ミサ・エストは、元の短いラテン語のフ
レーズの上に、2つの異なる言語のテキストとメロディーを重ね同時に歌う
というダブルモテットの形式で、なんと最上声部はフランス語の世俗恋愛詩
のテキストが使われているのです。


 これは当時の人々が、ミサの中にさまざまな時代・様式の音楽を取り入れる
ことを躊躇わず、それぞれの通常唱に相応しい作品を選び演奏していたこと
を物語っています。そのような中世の人たちの自由な感性に触れると、みなさ
んの持つミサ曲へのイメージも少し変わってしまうかもしれません。
今回はこの「トゥルネーのミサ」を、同じ写本に残る聖⺟の祝⽇の固有唱の
グレゴリオ聖歌とともに演奏いたします。古楽演奏に精通した3 人の歌い手
による、単声/ポリフォニーの繊細で柔軟な声の響きの世界をどうぞお楽しみ
ください。

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